添い寝は日替わり交代制!?
4.食事を共に
鍋には柔らかく煮込んである肉と野菜が入っていた。
「カレーですか?大好きです。」
出してくれたレタスをちぎりながら発言すると、ふわっと笑う顔がすぐ近くにあって心臓に悪い。
私、どうしちゃったんだろう。
そりゃ佐々木課長は整っている顔立ちだし、かっこいいって思ったことだってあるけど……。
こんな風に意識するのは初めてだ。
「ビーフシチューは嫌いですか?
まだデミグラスソースを入れる前なのでカレーにも変更できますよ。」
ビーフシチューにデミグラスソースって!
なんでカレーなんて言ったのよ!私は!
「いえ。好き嫌いはありません。
そんなオシャレな食事を家でしたことなくて……。
カレーなんて言って恥ずかしいです。」
酔った佐々木課長は何を言っても優しくて勘違いしそうになる。
「私もカレー好きですよ。
ただ、初めての手料理を振る舞うので、こちらも気負ってかっこつけてしまいました。
またカレーも作りましょうね。」
またって……。
それに佐々木課長が私に気負う必要なんてどこにあるんだろう。
真意がつかめないままサラダを完成させた私にバケットとパン切り用のナイフを渡された。
「斜めに切ってもらえますか?
ガーリックトースト……好き嫌いなくても、におい気になりますか?
2人とも食べれば問題ないですよね?」
深い意味なんてなくて、においを気にするのは普通のエチケットとしてのことだと思うのに薄い唇が目に入ってドキッとする。
な、なんの想像してるのよ!
今日の私はどうかしてるんだ。
私も昨日みたいに酔っちゃえば打ち解けられるんだろうけど……昨日みたいに迷惑をかけてしまっては元も子もない。
晩ご飯はビーフシチューにガーリックトーストとサラダ。
「それから、はい。
サーモンのカルパッチョ。」
ピンクのサーモンにオニオンスライスと、黒っぽい……オリーブ?まで乗っていてお店のみたいに華やかだ。
冷蔵庫に用意してくれてあったようでお皿まで冷えている。
うわーというのが顔に出ていたみたいで苦笑いされた。
「いつもこんな食事のわけじゃないんです。
気負ったって言いましたよ?
それに……。」
「……それに?」
言い淀んだ佐々木課長の瞳に何かを企てているような怪しさが浮かんだ気がした。
心春はとんでもない罠にかかってしまったんじゃないかと落ち着かない気持ちになった。
それさえも読み取ったような佐々木課長がクククッと笑う。
「そんなに怯えないでください。
取って食べようっていうわけじゃないんですから。
胃袋をつかめばいいって言うでしょう?
食べながら話しませんか?
飲みますか?赤ワインどうですか?」
こんな状況で飲んでしまったら、連帯保証の欄にサインとか、怪しい商品を買うサインとか……何かとんでもないことをさせられそうな気がする。
心春は力一杯に首を振ると、またクスクスと笑う佐々木課長が「ではぶどうジュースです」と、ワイングラスに注いでくれた。
「私は失礼して飲んでもいいですか?
もう少し酔わないと私も話せる自信がなくて……。
食べながら飲めば悪酔いはしないと思いますから。」
今より酔わないと話せない話ってなんなの!?
いっそ話してくれない方がいい気がするよー。
そんなことは佐々木課長に言えるわけもなく「どうぞ」と言うしかなかった。