添い寝は日替わり交代制!?
「すみませんでした。
昨日はご迷惑をおかけして。」
あぁ。
ちゃんと開口一番で謝るべきだったのに。
恐る恐る佐々木課長を見るとポカーンとしている。
「え?迷惑なんて……。
有難いというか……。」
今度はこちらがポカーンとする番だ。
有難い……って何が?
次の言葉を佐々木課長は少し言いづらそうに口にした。
「私、他人と同じ空間にいるとリラックスできないのです。」
「………!?
ご、ごめんなさい!
早急に帰らせていただきます!!」
慌てる私に佐々木課長はクスクス笑いながら静止した。
「待ってください。
話は最後まで聞きましょうね。
私も話し方を間違えました。
失礼しました。」
一呼吸置くと、もう一度佐々木課長が話し始めた。
「中島さんは大丈夫なんです。
職場で気づいた時は驚きました。
同じ空間にいても苦痛じゃないんです。」
佐々木課長は褒めてくれているのだろうけど、心春は昔を思い出して胸を痛くさせた。
高校の頃、空気を読めるか読めないかが流行った時期があった。
読める人はいい人で読めない人は嫌がられたりして。
でも空気って読み過ぎると自分が空気みたいになっちゃって、いてもいなくても同じになってしまう。
つまり、まさに私が空気みたいになっていた頃があった。
空気になったら今までどうやって過ごしていたのか思い出せなくて、そのまま空気のまま過ごしてた日々を思い出す。
今だって出来ればひっそりと隠れて暮らしていたい。
自分は必要ないということをわざわざ感じながら生きているのはつらいから。
だから空気になれたのも、ある意味では無意識な自己防衛かもしれなくて………。
「話が前後してしまいました。
私は1人が好きでした。
しかし昨日のように接待や飲み会を終えて帰るマンションの侘しさ。
それをここ最近すごく感じるんです。」
そっか……。
私も30歳になったら、そういうのを寂しく感じるようになるのかなぁ。
他人事のように……というか本当に他人のことだし、そうなんだぁ程度に聞いていた。
次の言葉を聞くまでは。
「ですから中島さんここに住みませんか?
ちょうど中島さんもお困りのようでしたし。」
「………はい?」
間抜け顔で声を上げたみたいで、佐々木課長が面食らった顔でクスクスと笑う。
でも普通そうでしょ。
この流れってそうなる流れだった?
……そりゃ昨日、最初の方にそんな話もしたけどさ。
「そんなに驚く事ですか?」
口元に拳を当てて笑いを堪えながら話す佐々木課長になんだかムッとする気持ちになる。
佐々木課長は一緒に住むとか、どーってことないんでしょうけど!
「佐々木課長なら私なんかじゃなくて、いくらでもいらっしゃるんじゃないですか?」
「だから先ほども言いましたよ。
中島さんみたいに一緒にいても苦痛じゃない方は初めです。
空気みたいってこのことを言うんだと思いました。」
空気みたい……。
そう。私は空気だから。
その言葉は言われて嬉しい人の方が多いと思う。
それなのに心春は胸を痛くさせた。
「『空気みたい』をまだ気にしているのですか?」
………まだ?
「昔、その話をしたことがあるんですよ。
中島さんは忘れておられると思いますが。」
いたずらっぽい笑みを浮かべた佐々木課長を見ても、全然思い出せない。
飲み会の席とかで話したかなぁ……。
そんな話を佐々木課長にするとは思えないけど……。
「まぁいいんです。
その話までしていたら長くなってしまうので。
私の言う『空気みたい』は褒め言葉です。
悪く取らないでください。」