添い寝は日替わり交代制!?
前向きな気持ちになると、改めて佐々木課長に向かって頭をさげた。
「こちらにお世話になることになりました。
ご迷惑をおかけします。」
もうここに置いてもらうしかない。
「やめてください。
私から言い出したんですよ。」
「でも……置いてもらう上に食事まで作ってもらうわけには………。」
佐々木課長は優しく首を振る。
「食事は1人だと作りがいがありませんが、中島さんが食べてくれるのなら、こちらも嬉しいです。」
「だからって………。」
少し考えた様子の佐々木課長が口を開いた。
それは驚くことだった。
「では………ベッドを共にしていただけますか?」
「な………………!!!」
顔が真っ赤になっていくのを止められない。
なんで?まさかの体目当て?
でも!!だってそれこそ佐々木課長にはもっとお似合いの人がいると思うし、私じゃ逆に申し訳ない。
頭をグルグルさせているとククッと笑う佐々木課長がまた拳を口元に当てている。
「すみません。また言い方を間違えました。
それにしたって、そんなに戸惑われると少々落ち込みます。」
「え!?す、すみません。」
「ハハッ。謝らないでください。
年を取ると人肌が恋しくなるのです。
だからベッドを共にしていただけると………。
あぁ。言い方を変えないといけませんでしたね。」
またクスクス笑う佐々木課長にわざとじゃないよね?と訝る視線を送る。
「添い寝してください。
中島さんが隣に寝てくれたら安心して眠れそうです。」
「添い寝……。」
「天地神明に誓ってもやましいことはしません。」
ウィンクをされ、吹き出すと柔らかく笑われた。
「だから安心してここに住んで下さい。」
甘えちゃっていいのかなぁ。
優しい佐々木課長といるこのマンションは思いの外、居心地が良かった。
「では……ルールを決めませんか?」
この際、ここに住まわせてもらうのは有難くお言葉に甘えよう。
でもきっとルールは必要だ。
陽菜とのルールは『喧嘩はしない。けど、言いたいことは言う。』だ。
ルール……後半は守れてなかったかもしれない。
「ルールですか。分かりました。
でも今日は遅いです。
幸いなことに明日は土曜ですし、明日話し合いませんか?」
「分かりました。
……いえ。かしこまりました。」
フフッと笑った私の前で佐々木も微笑んで頬づえをついた。
「で、どうしますか?」
またいたずらっぽい顔の佐々木課長が目の前にいて、やっぱり別人みたいだなぁって呑気に眺めていた。
その眺めていた口先から忘れていた驚くことを言われた。
「今日も一緒に寝ていただけますか?」
一番忘れちゃいけないこと。
ベッドを共にって言われたんだった。
考えあぐねている心春を残して佐々木課長は立ち上がり、片付けを始めた。
「さぁ。時間は有効活用しましょうね。
片付けしながら返事は考えておいてください。」
そっか…そうだよね。
そう思いつつ、笑えてしまう。
「今のはなんだかいつもの佐々木課長みたいですね。」
思わず出た言葉に佐々木課長が口を手で覆った。
「失礼しました。
嫌な気持ちになられましたよね。」
顔から血の気が引くようにあからさまに佐々木課長の気持ちが沈んでいっているのが分かった。
「ま、待ってください!」
思わず手をつかんだ私に佐々木課長は目を丸くした。
なにより自分の行動に自分が一番驚いた。
でも………。
「これ以上、私のために飲まないでください。」
「どうしてそれを………。」
やっぱりもっと酔おうと思ったんだ。
いつもの佐々木課長じゃ私に悪いと思ってるんだ。
「私も言葉を間違えました。
いつもの佐々木課長みたいですけど………嫌なわけじゃないんです。」
心春が言葉をかけても顔が晴れることはなかった。
ただ優しく頭にポンポンと手を置いてから、そっと離した。
「嫌にならないといいんですが……。
さぁ片付け再開しましょう。」
悲しそうな声にどうしていいのか分からなかった。
寂しそうに向ける大きな背中にギュッと抱きつきたくなって、思わず握ってしまった手といい、どうしてそう思ったのか自分の心に戸惑っていた。