添い寝は日替わり交代制!?
「ダメですよ。
髪を濡れたままにしておいては。
風邪をひきます。」
手をとられ椅子に座らされると、佐々木課長はどこかに行ってしまった。
すぐに戻ってきた手にはドライヤーがあった。
当たり前のように乾かしてくれる。
「あの……色々とすみません。
ご迷惑ばかり………。」
「え?聞こえません。」
ドライヤーの音で声は流されてしまう。
これからここに置いてもらうんだ。
気になることは最初に聞いておこう。
少し大きめな声で質問する。
「佐々木課長は潔癖症ですか?」
「はい?何です?」
ダメだ。
これ以上、大きな声を出すなんてできない。
何より潔癖症だって分かったらどうしたらいいんだろう。
聞いてどうするんだろうって気持ちが浮かんでしまって、結局は何もできなかった。
「さぁ。乾きました。
中島さんはベッド使ってください。
私はお風呂へ行ったら適当に寝ますから。」
目を細めた佐々木課長の微笑みがやっぱり寂しそうで、再び頭に手をやって髪をクシャッとさせる姿に気づけば口から勝手に言葉が転がり落ちていた。
「しましょう!添い寝!」
驚いた様子の佐々木課長の動きが止まったと思ったら、急に抱きかかえられた。
「え?な……どうしたんですか?」
「早く寝かせるためです。」
「え?え?」
戸惑う心春は佐々木課長の部屋に連れていかれ、トサッと優しくベッドの上で離された。
添い寝しましょうとは言ったけど、何?この展開。
「ほら。体が冷えてますよ。」
体が冷えているから?
突然の佐々木課長の行動に戸惑って固まって動けない。
「眠れるまで側にいましょうか?
人の呼吸や心音を聞くと落ち着いて眠れるそうですよ。
一番いいのは眠っている人のにおいを嗅ぐといいそうです。」
ほらっと言った佐々木課長が隣に寝転がって、自分の胸に心春の体を引き寄せた。
「に、においって………。
佐々木課長はお酒くさいです。」
「ハハッ。
それはすみませんでした。
でも嗅ぐのは眠った人のにおいですよ?
今は心音で我慢してください。」
本当はお酒のにおいに混じって男の人のにおいがしてドギマギしてしまう。
言われた通り体が冷えていたのか、お酒を飲んでいる佐々木課長の体温はあたたかくてぬくもりが心地いいのに、ホッとできる状況でもない。
できるだけドギマギを気にしないで済むように耳の方に意識を向ければトクトクトクと心地よい音が聞こえて確かに安心する。
しばらく心地よい心音に耳を傾けているとトクトクの音とぬくもりに緊張も薄れていく。
「本当ですね。
眠れそう………って佐々木課長が寝てる。」
穏やかな寝顔の佐々木課長はスースーと規則正しい寝息を立てていた。
思えばこんな近くで整った顔立ちをまじまじと見たことはない。
「まつ毛まで長い…………。
綺麗な顔だなぁ。
あ、首すじにほくろ発見。
…………ほくろまで色っぽいなんて本当、嫌味。」
観察しても、何をつぶやいても怖くない。
すごく優越感を感じる。
酔っている佐々木課長は怖くないんだけど、それでもこんなにジッと見ることははばかられる。
「本当になんで私を住まわせてくれたんだろう。」
声に出してみても答えは分からなかった。
佐々木課長が言っていた寝てる人のにおいにやられたのか、規則正しい寝息が心地よかったのか……。
いつの間にか心春も佐々木課長に寄り添うように眠っていた。