添い寝は日替わり交代制!?
でもそんなわけにはいかない。
だって私は居候の身だ。
ちゃんとしなきゃ。
今のままじゃ私はお世話になりっぱなし。
家事の分担なりを決めなきゃ。
だいたい職場の人にバレない方がいいだろうから、その辺りのこともどうするのか決めた方がいいに決まってる。
「ちゃんとこれからのことを決めたいです。」
「これからですか………。
これからは添い寝することと、休日こはちゃんと過ごすことになりましたよね?
私の思い違いでしたか?」
相変わらず優しい声色が少しだけ寂しそうな色合いを見せて、言い出したことを引っ込めたくなる。
「思い違いではないですけど、それ以外にも色々と……。」
顔を上げ、言葉を続けようとした心春に貴也さんが穏やかな声で告げた。
「大丈夫です。
心配することは何もないですよ。」
それは心の奥に響く、低いのに柔らかい安心できる声。
その声に導かれるまま、大丈夫って思っていたくなる。
「酔った貴也さんは楽観的過ぎます。」
小さな抵抗みたいに、つぶやくようにこぼれた言葉は貴也さんを柔らかく笑わせた。
それでもその笑顔はどこか寂しそうだった。
酔った貴也さんは柔らかくて穏やかなのに、ふとした時に寂しそうな顔を見せた。
その顔をされると自分の言いたいことが喉につかえてしまう。
これ以上、寂しそうな顔をしないでっ言いたくなる。
寂しそうな顔をした貴也さんは目を伏せて口を開いた。
「だから飲むことを止められないのかもしれません。
普段の私はなにぶん考え過ぎる傾向にありますので。」
確かに普段の佐々木課長は寸分の狂いなく物事を正確に進める人で、その行動は計算尽くされているように思えた。
そんな佐々木課長と酔っている貴也さんは同一人物に思えない。
マンションに住まないかと誘われた時といい、思いつきで行動しているみたいに見える。
それなのにいつもより楽しそうで。
しばらくの沈黙のあと、貴也さんは言葉を重ねた。
「大丈夫ですよ。
大丈夫は魔法の言葉なんです。」
大丈夫。大丈夫。
繰り返される『大丈夫』の言葉。
きっと貴也さんが大丈夫って言ってくれたら大丈夫なんだ。
そう思えて、自分の悩みがちっぽけに感じる。
それでも不安が顔に出ていたみたいで、貴也さんが心を読んだようにもう一度『大丈夫』と重ねた。
「ここに住んでうまくやっていけるのか心配されるのは分かります。
しかし起こっていないことを心配しても仕方ありません。
今、この時間を楽しみましょう。」
「………今を楽しむ。」
貴也さんの言葉を確認するように繰り返した心春は視線をテーブルに移した。
渡されたままのお皿の上のスペアリブ。
それを口に運ぶとやっと味わうことができた。
心配し過ぎても仕方ない。
きっと貴也さんとなら大丈夫。
そう心の中でつぶやいた。