添い寝は日替わり交代制!?
11.その好きはどの好きですか?
「あの……貴也さん?」
「はい。」
呼んでおいて何をどこから質問すればいいのか分からない。
何も言い出せない心春に、柔らかく微笑む貴也さんは至って普通に見える。
普通というか酔っているんだから、酔っ払いの戯言なんだけど………。
何も言えなくなってしまった心春に貴也さんが先に口を開いた。
「これで、こはちゃんに私が色々とお世話をする理由ができましたね。
というわけで、はい。こちらへどうぞ。」
返事をする間も無く引き寄せられた体は昨日と同じように貴也さんの胸元に顔をうずめる形になった。
次々に起こる驚くような出来事に頭は追いついていかないけれど、心は少しだけ冷静になった。
お世話する理由付けのために好きって言ってくれたんだって分かったから。
一回り離れていて好きとかそんなこと思うわけないんだ。
ちょくちょく子ども扱いされているし。
それに本当にあっちの……どっちのか分からないけど、あっちの好きならこんなに自然で普通でいられないと思う。
気遣われて言われた好き……かぁ。
僅かに胸の奥がチクッとして、なんの痛みなのよって自分につっこんだ。
貴也さんの胸に顔をうずめたまま、気持ちが沈んでいく心春の耳に貴也さんの声が聞こえた。
「こはちゃん。
このことは私に内緒にしておいてもらえませんか?」
「はい?」
「しらふの私にってことです。」
「はぁ。」
「きっとこんなこと言ったなんて知ったら、こはちゃんと話せなくなってしまいます。」
「はぁ。」
こんなことって、酔った勢いで私へ好きって言ったことだよね。
気遣いで好きなんて言ったなんて、酔いが覚めて知ったらたまったもんじゃないよね。
っていうことは、酔っている時のことはあまり覚えないってことなのかなぁ?
佐々木課長は言葉を選ぶように続けた。
「酔っていない私にもし同じことを言われたら………その時まで心の中にしまっておいていただけると助かります。」
酔ってない貴也さん……というか佐々木課長にそんなこと言われるわけがない。
そもそもさっきのことは内緒とか、貴也さんと佐々木課長は別人格みたいだ。
覚えていない佐々木課長に「私のこと好きって言ったんですよ」なんて言えるわけがない。
そして、わざわざそんなことを念押しする貴也さんにやっぱりリップサービスだったんだなぁと嫌でも気付いてしまった。
「さぁ。もう寝ましょうね。
心音、聞いていますか?
よく眠れますよ。」
色々なごちゃごちゃがあった心は不思議とすっきりしていた。
佐々木課長は心春のこと好きなんだよ!
って言った陽菜の言葉にドギマギする必要もない。
ただお世話する理由付けのために好きと言えるほどに自分のことはなんとも思っていないんだ。
そう思ったら気に病むことなく、この温もりに甘えていいんだと思えた。
なすがままだった心春は自ら寝心地がいい貴也さんの胸元を探ると耳を近づけた。
トクトクと規則正しい心音に安心すると夢の中へといざなわれていった。