添い寝は日替わり交代制!?
13.日替わりへの決意
とぼとぼ歩いていると、手の中の携帯がまた騒がしい。
力なく確認すると陽菜だった。
また宇佐美くんだったら嫌だな。
………別に宇佐美くんが悪いわけじゃないか。
気を取り直して電話に出ると、陽菜だった。
『さっきはごめんね。
佐々木課長と大丈夫だった?』
「……。」
何故だか何も言えなかった。
電話口の陽菜の『どうしたの?心春?』って声が遠くに聞こえていた。
陽菜の彼はバイトに行き、宇佐美くんも帰ったアパートに心春は来ていた。
こんなに早くに来るなんて思ってもみなかった。
「ごめんね。
彼の友達なんかに話しちゃったばっかりに。」
申し訳なさそうな陽菜が逆に申し訳ない。
「ううん。いいの。
まさか自分がショックを受けるだなんて思わなくて。」
「佐々木課長に何か言われた?」
「ううん。その逆かな。」
入れてくれたコーヒー。
そのカップを手で包んで、カップの湖面に映る自分の顔を見つめた。
ゆらゆらと揺れるそれはどこかへ消えてしまいそうに見える。
「そっか。宇佐美くんとの添い寝を佐々木課長もOKしたんだ………。」
「うん。」
そりゃそうだ。
こんな変な関係なのをバラされても困るし、佐々木課長からしたら私が住む場所に困っているから手を差し伸べただけ。
私に感謝してるとか好きだとか言われたけど、あれはやっぱり私に住まわせてもらって悪いなぁと思わせないためなだけであって………。
「気にかけてくれてるのかなとは思っていたかったな。
今回のことで私がどこでどうなろうと関心がないって言われたみたいで。」
ほんの数日、私生活に関わっただけでも知らなかった一面を知れて、少なくとも私は佐々木課長と距離が近づけたんだ思っていたのに。
「心春?
ピンチはチャンスって言うじゃない?」
「何?急に。」
面食らっていると陽菜が不敵に笑った。
「宇佐美くんもなかなかのイケメンじゃない。
私の彼の後輩で今年大学に入ったばっかりって言ってたから年下みたいではあるけど。
一回り上の佐々木課長よりいいかもよ?」
「また、何を急に………。」
宇佐美くんが何故あんな提案をしてきたのかよく分からない。
だって宇佐美くんだって、女の人に困るようなタイプじゃない。
「からかわれてるだけだよ。」
佐々木課長も同じようなものだったってことなんだよね。
私をからかって楽しいのかな。
「そうかなぁ。
どっちにしても宇佐美くんと添い寝なんてドキドキだね!
恋が芽生えたりしてね。」
目がハートの陽菜にハハッと笑うしかなかった。
その心春に驚くことが告げられた。
「宇佐美くん『中島さんとお近づきになれるなんてラッキー』って言ってたよ。」
「嘘。そんなわけないよ。」
「またまた〜。
心春って案外、職場でモテモテなんじゃない?」
陽菜の突拍子も無い発言にプッと吹き出すとあははっと笑い合った。
何に落ち込んでいたのか馬鹿らしくなって心が軽くなる。
「宇佐美くんと添い寝……嫌だったらここに戻ってきていいんだよ?
私の彼もさすがに責任を感じたみたいで自分は実家でいいって言ってるし。」
まだ本格的に引っ越したわけじゃないし彼。
って言ってくれる陽菜にあたたかいものが心にじんわりと広がるのを感じた。
「ありがと。
宇佐美くんが何を考えてるのか分からないけど、今日は宇佐美くんと添い寝してみようかな!」
「大丈夫!?
無理そうだったらすぐ言ってよ?」
「うん。大丈夫。ありがと。」
こんな時に佐々木課長の『大丈夫は魔法の言葉』が思い出されて胸がキュンと痛んだ。
「宇佐美くんが電話してって言ってたよ。
私も一緒にいる時に電話したら?
変だと思ったら私からも断ってあげれるし!」
陽菜の心強い提案に宇佐美くんに電話することにした。