添い寝は日替わり交代制!?

 目を開けると見知らぬ天井と布団。

 ビックリして起き上がると微かに頭が痛い。
 時計を見ると5時ちょっと過ぎ。

 恐る恐る隣を見ると……誰もいなかった。
 セミダブルくらいの広いベッドだとしても、いくらなんでも隣に誰かいるかいないかは布団を上げてみれば分かること。

 ベッドを出ると自分が昨日のままの服で寝ていたことに気づく。
 そっとドアを開け、隣の部屋を確認しても誰もいない。

 他の部屋をあんまり覗くのもなぁと思っていた心春にテーブルの上の置き手紙が目に入った。

『中島さんへ
 飲ませ過ぎてしまいました。すみません。
 酔い潰れてしまったため、私の部屋に連れてきました。
 天地神明に誓ってもやましいことはしていません。』

 何、この固い文書。
 ププッと吹き出して続きを読む。

『私は残してきた仕事があるので、職場に戻ります。
 シャワーを浴びて出て行きます。
 会社で仮眠を取ってそのまま明日に備えるので、鍵を閉めて出て頂いて構いません。
 会社で仮眠を取るのはよくあることなので、お気になさらずに。』

 お気になさらずと言われても、自分がいたせいで帰らないことにしたことくらい分かる。
 いくらなんでも悪い。
 もう悔やんでも遅いのだけれど。

『社内で鍵を渡されて噂されるのも困ります。
 持ち帰った鍵は仕事終わりに届けて頂けると助かります。
 私の方が帰りは遅いことでしょう。
 部屋に入って待っていて下さい。』

 手紙の最後には丁寧に最寄りの駅までの地図が書かれており、近くには鍵が置いてあった。

 字まで綺麗とか、もはや嫌味……。

 鍵をかけずに帰るわけにはいかないし、何よりこんなにしてもらっておいて、鍵くらい届けないわけにもいかない。


 昨日もすごくお世話になった。
 微笑む佐々木課長がずっと話を聞いてくれて、陽菜への不満を話した。

「友達とルームシェアしているんです。
 その子に彼氏ができて……。」

「そうだったんですか……。」

「私だって親友に彼氏ができて嬉しいですよ?
 でも何も毎日毎日、連れて来なくてもいいのに。
 彼のことは気にしないでって言われても、目の前でイチャイチャされたら……。」

「それはつらかったですね。
 でも、2人を気遣って遅く帰ろうとして、中島さんは優しい方ですね。」

 優しくなんてない。
 2人を気遣ってというよりは、ただ自分が2人を見ていたくなかっただけ。

 佐々木課長はグラスを傾けて中身を飲み干すと優しい声色で続けた。

「それに、そのおかげで私は中島さんとご飯を共にできたわけですし。
 私はその友達に感謝したい気分です。」

 軽くウィンクまでする佐々木課長のグラスの中身が本当にウーロン茶なのか確認したくなる。
 だって、佐々木課長って普段こんな人じゃない。

 それなのに、この激甘な佐々木課長に自分が飲んだお酒の力も相まって、散々愚痴ったりいろんな話を聞いてもらった。

 酔い潰れた心春に肩を貸して、佐々木課長のマンションまで連れてきてくれたことまで思い出すと、ショックで頭痛がひどくなりそうだ。

 佐々木課長って酔ったら忘れるタイプかな?
 覚えてたらどうしよう殺されかねない。
 あぁ。でも覚えてなかったら鍵返せないし。

 マンションを出て、振り返るとますますゾッとした。

 ここ、あのマンション!!

 いつも電車から見える高層マンション。
 重厚感があるその外観と駅から近い立地。
 通勤途中に見かけるたびに憧れていたマンション。

 身震いをしてから急いで駅に向かった。

 早く!早く現実世界に帰らなくっちゃ!
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