添い寝は日替わり交代制!?
17.職場での宇佐美くん
ぼんやりとある人物を観察する。
宇佐美 和久(うさみ わく)18歳。
大学生になってすぐにここのアルバイトを始めている。
職種は違えど今年入社の私とは同期みたいなもの。
それでもあまり話したことがないのは……。
「キャー。
宇佐美くん髪が乱れるのも素敵!」
「私の手であの髪をめちゃくちゃにしたい!」
半ばアイドル的にキャーキャー言われている宇佐美くんは嫌味なくサラリと髪を整えて誰が開けたのか風が吹き込む窓を閉めた。
「僕だけじゃなく、皆さんの綺麗なヘアスタイルが崩れてしまいますよ。」
陰でキャーキャー言っている先輩方に素敵コメントを忘れずに投げかける宇佐美くんはさすがだと思う。
黄色い声のボリュームが最大限に上がる。
ある意味いつもの光景。
佐々木課長と言い、宇佐美くんも女の人に困るタイプじゃない。
なのにどうして私と添い寝だなんて……。
ぼんやりする心春の頭にズシッと嫌な重さが置かれた。
「中島さん。月末が近いのに人間観察とは優雅なものですね。」
珍しく棘がある言葉をかけられてヒヤッとする。
「仕事よろしくお願いしますね。」
「………かしこまりました。」
去っていく背中に固めに返事をすると、隣の吉田先輩が不思議そうに聞いてきた。
「いつもの返事はどうした?
あれ、好きだったのに。」
佐々木課長にも同じようなことを言われたけど、恥をさらしていたんだって知ったのに言い続けるなんてできない。
元々はひっそりと生きてきた。
それが佐々木課長の部下になったばっかりに、注目されるようになって宇佐美くんにまで………。
佐々木課長のマンションに住まわせてもらっていることがバレても困るけど、宇佐美くんのことだってバレたら困る。
絶対に宇佐美ファンの先輩達に何か言われちゃう。
今一度、ひっそり生きられるようにしよう。
宇佐美くんだってちょっとした暇つぶしで添い寝の仲間になりたいなんて言い出したに決まってる。
そんなことやめようって話してみよう。
そこまで考えて、でも佐々木課長はどうしようと行き詰まってしまった。
ぼんやりし過ぎていつの間にか定時を過ぎていた。
仕事は終わっていない。
慌てて仕事に集中しても遅かった。
1人、2人と人が帰っていき、とうとう最後の1人になってしまった。
「はぁ。久しぶりの1人残業。」
そういえばいつもこういう時は佐々木課長がさりげなく助けてくれた。
今日の佐々木課長は心春に仕事を依頼した後、出張に行ってしまいホワイトボードには直帰と書かれていた。
出張先からそのまま帰ってしまうということだ。
「私っていつも佐々木課長に助けられてたんだなぁ。」
有難い気持ちと情けない気持ちがないまぜになって気持ちが落ちていく。
「まだ残業してるんですか?」