添い寝は日替わり交代制!?
24.ぼんやり過ごした時間
 佐々木課長のマンションに来てからもぼんやりしてしまっていた心春は心あらずのままだった。
 いつもながらに素敵な食卓にもかかわらず、何を食べたのかも、何を話したのかもおぼろげだった。

「シングルベッドにしておけば良かったです。」

 寝室に入って開口一番で放った貴也さんの言葉。

 こっちは羨ましくてため息が出そうだ。
 部屋はセミダブルを置いてもまだ余裕がある。

 それに……。
 シングルではない理由もきっとあったりして………。

「広くて羨ましいです。
 彼女さんがお泊りしたんですか?」

 つい口をついて出てしまった言葉は思わぬほどに自分の心を抉った。
 その上、目に映った貴也さんの悲痛ともいえる表情に胸が張り裂ける思いがした。

 言いたいことを言えない性格だったはずなのに、貴也さんといると余計なことばかり言っちゃってる気がする。

 無言の時間に耐えきれず、やめればいいのにまた口を開いた。

「すみません。辛い思い出でも?」

 ベッドに腰を下ろし俯いてしまったその顔は伏せたまつ毛が微かに震えているように見える。

 立ち尽くしたままの心春の胸はキシキシと音を立て軋んでいった。

 少し間を置いて、やっと発した貴也さんの声はかすれて消えてしまいそうだった。

「そうではありません。
 この部屋に入っていただいたのは、こはちゃんが初めてです。」

 いつもみたいに柔らかく笑っているはずの貴也さんの顔はどこか寂しげでかすれた声と一緒に消えてしまいそうだった。

「酔ったところを……というか、酔って甘えたような自分を見せることはできませんでした。」

「………どうして私には?」

 ほんの一瞬だけ、ほんの一瞬、期待してしまったのかもしれない。
 しかしそれは儚く散ってしまった。

「それは中島さんといると心穏やかになれますし、一緒にいて心地よいからです。」

 喜べなかった。
 褒められているのかもしれないけれど喜べなかった。

 彼女さんのこと、彼女さんには無理してしまうほどに好きだったんだろうな。
 そう悟ってしまった。

 好きってきっと…そういうものだって私にだってわかる。

 お互いに何も言葉を続けずにベッドに横になった。



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