添い寝は日替わり交代制!?
27.私の気持ちは
 どうしてか佐々木課長のマンションで夕食を作っている。

 よっぽど酔っていたみたいで部屋に入っても気づいていなかったみたいだ。

 ものすごく酔っているんだと思う。
 今日の佐々木課長というか貴也さんは甘えん坊で可愛かった。

 「寂しかった」とか「こはちゃんの手料理が食べたい」なんて…。
 しかも「じゃ作ります」と言ったのに「もう少しこのまま」と離してくれなかった。

 なんだかいつも以上に優しいというより甘くて、キッチンに1人立っている今も先ほどの情景を勝手に思い出してしまって顔から火が出そうだ。

 貴也さんは手伝ってくれるわけでもなく近くのテーブルに座り、じっとこちらを見ている。
 その視線が熱っぽくてどうしていいのか分からない。

「あの。見られてるとできないです。」

「ヤダ。こはちゃんを見ていたい。」

 終始こんな感じだ。

 どうしてここにいるのかは聞かれないし、宇佐美くんはどうしたのかも聞かれない。
 私も井上さんとはどうしたんですか?と聞けなかった。

 ただ「私が心配で来た」ということだけでこうなっている。

 本当はマンションに上がって貴也さんに会う前までは不安だった。

 もしかしたらまだ仕事かもしれない。
 居なかったら帰ろう。
 でもどこに?

 そんなことを考えていた。

 そして「どうして来たんですか?今日は宇佐美くんのところですよね?」と迷惑そうに言われたらどうしようかと。



 味見をしても味なんて分かるわけもなく、恐る恐るテーブルに出した。
 それを嬉しそうな顔の貴也さんが見つめる。

「お口に合うか分かりませんが。」

「ありがとうございます。
 とんだわがままに付き合っていただいて。」

 少しだけいつもの貴也さんに戻った気がしてホッと息をつく。
 敬語じゃない貴也さんなんて珍しいどころか初めてだ。

「わがままなんて。
 いつも作っていただいて悪いなぁと思っていました。」

「悪くないですよ。
 とにかくいただきましょう。」

 目の前で貴也さんが私の作った料理を食べている。
 「おいしいです」と目尻を下げて言う貴也さんにホッと息をつく。

 誰かに自分の作った料理を食べてもらってこんなに緊張したことはない。
 それなのに「おいしい」と言われてこんなに嬉しいことも。

 いや。だって。ほら。
 貴也さんは自分でも作れるし、その腕がプロ並みだから…。

 自分によく分からない言い訳をしていると携帯が鳴った。






< 67 / 98 >

この作品をシェア

pagetop