添い寝は日替わり交代制!?
 いつの間にか寝ていたみたいで目を開けると、貴也さんがすぐ近くで微笑んでいた。

 その貴也さんが少し改まった声で話し始めた。

「前にも言いましたが、このマンションに上げたのは、こはちゃんが初めてです。
 こはちゃんといると心地いいのも本当です。」

 その言葉は、昔の彼女さんのことが思い出されて苦しくなった。

 好きだからこそ緊張するからマンションに招けなかったんじゃなくて?

 そんな不安がそのまま口を出てしまった。

「それは私のことをそこまで思っていないからということになりませんか。
 好きな人じゃない人との方が緊張せずに話せたりするって言うじゃないですか。
 だからこそ気を許してくれているというか……。」

 心外だと言わんばかりに見開かれた瞳。

 好きだって言ってくれる貴也さんを信じたい。
 でも……。やっぱり不安で。

 さすがに好きじゃない人とまでは思っていない。

 でもどことなく余裕がある貴也さんに不安になる。
 余裕なんて持てないくらい今までの彼女さんのことは好きだったんじゃないかって。

「どうしたら私の気持ちを分かってもらえますか?」

 そう言われても困ってしまう。
 どうしても自分に自信が持てない。

「だって彼女だっていたことがあって、セミダブルのベッドを見てつらそうにしてたじゃないですか。」

「それは…。
 それは、こはちゃんが宇佐美くんのアパートで添い寝してるのを知っていたんですよ?
 私も宇佐美くんのアパートに行ったので知ってます。
 あの狭いシングルのベッドで身を寄せ合って寝たと思うと…。」

 嘘…。それって…。

「ヤキモチ…ですか?」

 無言でそっぽを向いてしまった貴也さんをものすごく愛おしいと思った。
 大人だと思っていた貴也さんの可愛い姿を見ると嬉しくなった。

「………私もです。」

「え?」

「私も前に井上さんと貴也さんが添い寝するって聞いて。」

 気になっていた。
 井上さんみたいに大人っぽい女性の方が佐々木課長には合ってるんじゃって。

「添い寝するわけないじゃないですか。
 今まで生きてきて朝まで一緒にいられたのは、こはちゃんだけですよ?
 それに……。」

 こはちゃんが好きだから他の人なんてって言って欲しかったのかもしれない。
 貴也さんの違うセリフは心が引っかかってしまった。

「それに?」

「そんな風に誰かと寝ていられない自分がどこか欠陥人間のような気がして、そのことも憂いていたかもしれません。」

 誰かと寝ていられないって……。
 それって。
 いられないだけであって……それはつまり……。

 私の異変を察したように私が気になっていることを貴也さんから話してくれた。
 でもそれは聞きたくて、でも聞きたくないこと。

「その……。
 大人の関係にはなったことはあります。」

「………………ほら。
 やっぱりそうなんじゃないですか。」

 朝まで一緒にいられなくても……。
 私とはまるで違う関係。

「だから最後まで聞いてください。
 それが汚らわしいと思われても今の私にはどうすることもできません。
 できることなら過去に戻って自分を戒めて止めたいですよ。」

 陽菜の言っていた「今の佐々木課長を信じてあげたら」という言葉が頭を巡る。




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