【完】悪魔な天使
それから"お兄ちゃん"は、
手に持っていたビニール袋を私の前に差し出して言った。
「腹減ってるだろ?コンビニで弁当買ってきたから一緒に食べよう。」
私は言われるがままに頷いて、
兄の後ろについて歩いた。
お兄ちゃんは小さな簡易テーブルの上に2つのお弁当を並べると、割り箸を渡してくれた。
ぐ〜、、と鳴るお腹の音が恥ずかしくて、咄嗟に自分のお腹を抱えると、
「もしかして、昼飯も食べてない?」
当てられてしまった。
「…うん。」
「そっか。じゃあ冷めないうちに早く食べよう。コンビニで温めて貰ってあるから。」
「…ありがとう。それじゃあ…いただきます。」
398円の幕の内弁当が
とてつもなく美味しく感じた。
たったそれだけの事で無性に泣きたくなるなんて、私…どうかしている。
「どうしたの?まだ飲み込むのが痛い?」
言われてみれば確かに飲み込む時、食道の痛みを感じているが…
泣きそうになったのはそれが原因ではない。
「ん…すこし痛いけど、大丈夫だよ。」
「最近はあまり吐いてないのにまだ食道炎が治らないんだな。無理しないで、食べれるものだけ食べろよ。」
言いながら、お兄ちゃんは自分のお弁当の玉子焼きを私にくれた。
「いいよ!お兄ちゃんのが無くなっちゃうじゃん。」
「好物だろ?遠慮すんなよ。」
「なんで…そんなに優しいのさ」
「別に、そんなつもりもないって。」
それが本当にこの人の真意なのだろうか。
まだまだ分からないことばかりだが、
私は既にこの人の事を好きになってきた。
設定上の関係で、知ったばかりの相手なのに
恋愛感情なんかじゃ言い表せない。
家族愛みたいな深い愛情が湧き上がってくる。
さっきから優しくされる度、胸が締め付けられるのはきっとそのせいだ。
私の現実にも、こんなお兄ちゃんがいてくれたら良かったのに。