【完】悪魔な天使

泣き続ける私の事なんて気にも溜めずに、
男はコップ一杯の水をテーブルの上に用意した。


「これ、ご褒美ね。もし届いたら飲んでいいよ。」


「…な…んで…?」


涙も乾いてしまいそうなその発言に、思わず疑問が溢れた。


「ま、届かないと思うけど。俺が帰ってくるまで良い子に待ってろよ。」


男は、何がそんなに楽しいのか
ケラケラと腹を抑えながら、家を出て行ってしまった。



……----。


「…お兄ちゃん…………お兄ちゃん……」




こうして問いかけるのはもう何度めだろうか。


時計の見当たらない部屋で、私は横たわって独り言のように呟き続けていた。


喉も渇いたし、
お腹もすいてるし、
それに茹だるような暑さだった。



もうずっと我慢していたトイレも限界…。



「…ぁ………」

ジョロロロと流れ出ていく感覚に泣きたい気持ちとスッキリしていく気持ちが交差する。


暖かく湿ったパンツとズボンが気持ち悪くて、頭がおかしくなりそうだった。



こんな最悪な試練なら…地獄へ落ちた方がマシだよ。




「…………なお……」


投げかけられたその声にハッとしてしまった。




起きて欲しいと願っていたものの、
あまりにタイミング悪すぎ…。








「……お兄ちゃん…、お漏らしちゃった…。」



正直に話すのは死ぬほど恥ずかしくて、
言ったあとで口にした事を後悔した。

自分の顔から火が吹き出るのではないかと思うほどに、熱い…。


「…大丈夫だよ。ほら、こっち見て。」


お兄ちゃんが少し滑舌悪く、そう言ったので、渋々そちらへと顔を向ける。


「え…ぉ兄ちゃん…!?」




お兄ちゃんのジーパンがジワジワと濡れていき、あっという間にフローリングには小さな水溜りができた。


「これでおあいこだし。」


お兄ちゃんは笑顔でそう言った。


「…………っ。」


「あ、ごめん。笑うと間抜けかな?」


「そ…、そんなことないよ…!」


「………。」


お兄ちゃんの目の周りはウサギのように赤かった。
きっと夜通し泣き腫らしたのだ。


私が判断を間違えたせいで…
あの時、あんな選択をしなければ…




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