【完】悪魔な天使
そして、デビーがまた指を鳴らす。
パチン…ッ----!
次に目が覚めると、真っ白い天井が視界に広がった。
「ナオ!兄ちゃんが薬買ってきてやったぞ。起きて飲めるか?」
……にーちゃん?
シングルベッドに横たわっていた上体を起こし、
声のする方へ目を向けると、
そこには一人の青年が立っていた。
15歳くらいの華奢な男の子だった。
「あのな、兄ちゃんはこれからまたバイトで出掛けて来なきゃならない。少しの間、お前一人になるけど、大丈夫か?」
男の子はそう言って、
そっと私の背中をさすっていた。
訳も分からないけど、どうやら試練は始まっているらしい。
下手な行動は取れないと思った私は
とりあえず頷いてみる。
「よかった。
じゃあここに薬とお水置いとくから。
あと、お腹が空いたら冷蔵庫に冷やご飯があるよ。
温めてから食べること。分かった?」
私がもう一度頷くと、青年は安堵の表情を浮かべてから笑ってみせた。
と、思ったら、
今度は深刻な顔付きをして言及をする。
「俺が家を出たら玄関の鍵を閉めてチェーンも掛けて。もしあの人が帰ってきても俺が戻ってくるまでチェーンは外さないこと。」
つまり…
どうやら、彼が家を出た後に戸締りをして、その後は彼が帰ってくるまで誰も家には招き入れなければいい、ということか。
そう解釈した私は
『絶対に約束。』
と言って小指を差し出してきた青年に対して、そっと小指を重ねてみた。
すると青年は、
私の頭を引き寄せてから、
コツン。
と、自分のおでこを私のおでこに優しくくっつけた。
「安静にして待ってろよ。行ってきます。」
青年が部屋を出てから数秒後、玄関の閉まる音が聞こえたので、自分もようやく動き出す。
どうやらここは1DKの狭いアパートのようだ。
彼から言われたとおりに玄関のチェーンを締めると、
突然…
ワッ!
とデビーが目前に現れた。
「びっくりした〜!もうっ脅かさないでよ!」
「アッハッハ!悪い悪い。そこまで脅かすつもりはなかったんだけどね」
「今までどこに隠れてたのよ?てか、試練中もあんたはこうして姿を現わすわけね?」
「あー、TPOってやつ?時と場合によってだな。お前と2人きりの時にだけ姿を具現化できるってわけよ。」
「なるほどね…。まぁその方が何かと助かるわ。」
「そうかい。そりゃあ良かった。」
「ていうか、デビー!
早速聞かせてもらうけど、この状況は一体何!?
兄ちゃんってどんな設定よ!?
私はあの人の妹ってこと?
あの人があんたの言ってた"とある青年"なの?」
こちらが真剣な質問を投げかけているというのに私の頭上で浮遊しているデビー。
面倒くさげに「ごめいとう〜」とだけ短く返答してくれた。
「ていうか、全然見知らぬ人がお兄ちゃんって!まったく役に入り込めないんですけど!」
「おっとっと!設定に文句を言わない事!
ああ、それと細かい事言うと、この世界の人には君は10歳の少年「ナオくん」に見えるようになってるんだ。だからお前は青年の"弟"だよ。
もしもこの設定を壊すような発言をすれば、どうなるか…もう分かるよね?」
「分かってるけど…!
現実の私は15歳の女子高生だってのに急に今から10歳の少年ですって言われてもしっくりこないというか…」
「はい、文句言ったー。篠田莉乃、減点1点!
これで地獄へと一歩近づいたよ。減点3点で試練失格とみなすから気をつけてねー。」
「くっ、、この傲慢悪魔!!
何よその新ルール…。もう何も言えないじゃないのよ。」
「とにかく!今は試練の主人公ナオ少年に成りきってミッションクリアだけを目指したまえよ。
もしも青年の心を乱すような事をすればその時点でお前は失格なんだからさ。」
「分かったわよ!てか、ずっとデビーに付きまとわれて監視されてる状況でそんな下手な真似ができるわけないじゃない。」(こちとら自分の運命がかかっとるんだっつーの!)
「そこまで理解できたのなら大丈夫だな。んじゃ、ご褒美にいい事おしえてやるよ。」
「え!?良いことって!?」
「服を脱げ」
「は?乙女に向かって何言ってんの?」
「アホか。お前の身体は今10歳の少年だっつってんだろ。安心して鏡の前で服を脱いでみろ。そしたら自分の置かれている状況が少しはわかる。」
「何よそれ。」