だったらあんたが堕ちてくれ

「ちゃんと教えてあげた?」

リビングに戻ると食器の片付けをしていた母さんが開口一番、椿の心配をする。

「したよ。ってかなんだよそれ?なんであんなやつの心配してんだよ」

キュッと水道を閉めて、お茶を淹れながら、母さんは「だって」とか「そんなの」とか言い出す。

「心配じゃない。記憶喪失なのよ?家はおろか自分のこともわからないなんて可哀想じゃない。柊だったらどう思う?自分がそうなったら不安で仕方ないでしょう?少なくとも、いまは家で面倒みることになったんだから、心配くらいするわよ」

ああ、なんてお気楽なんだ。

それが嘘だったらどうする?

得体も知れない他人をそう簡単に受け入れて、何か良くないことが起きたら、俺はどう責任を取ればいい?
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