だったらあんたが堕ちてくれ

記憶喪失なんてそんな状況の中、一体どこで酒を摂取したのだろう。

大体記憶っていつからだ?

記憶を失って、仮に何日か経っているとして、いままでどうやって生活してた?

一晩経って冷静に考えてみると椿という人間を形作るものに空白が多すぎた。

あるのは目に見える部分だけ。

それ以外は全部空白。

……俺はとんでもない拾い物をしてしまったんじゃないだろうか。

いや、拾いたくて拾った訳じゃないけど、拾ったつもりなんてさらさらないけど、そんなことはどうでもいい。

「お兄ちゃん、終わったなら早く代わってくれる?」

歯磨きを中断し、歯ブラシに残った洗顔フォームで顔を真っ白にした妹が背後霊よろしくすぐ後ろに立っていた。
< 46 / 389 >

この作品をシェア

pagetop