だったらあんたが堕ちてくれ
椿が記憶喪失だなんて嘘で、酔っ払った拍子に俺に絡んできて、一晩寝て正気を取り戻して、謝罪とともにこの家から出ていく。
そんなことを期待していた。
だけど椿の声は温度のない冷たいもののままで、振り返って捉えた姿からは申し訳なさとか羞恥心なんか全く感じられなくて、つまりそれは、昨日のことはそのまま事実ってことだ。
「おはよう。ちょうどご飯になるから起こそうと思ってたのよ」
「洗面台からうるさい声が聞こえてきて起こされた。この家は朝から随分賑やかなんだね」
「それ私!歯磨き粉と洗顔フォーム間違えちゃって。まいったまいった。まだ口の中が不味い気がする」
「おはよう。なんだみんなして突っ立って。座らないのか?」