漆黒が隠す涙の雫

すると、それに応えるようにゆっくりと伸びてきた腕が、私の体に回り、優しく包み込んだ。


「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」


「大丈夫。もう大丈夫だから」


後頭部を優しく撫でる、温かい手。


柔らかい低音の声が、耳に心地良い。




…………ん?



お兄ちゃんの声、こんなに優しかったっけ?


どちらかというと、いつもガサツでうるさくて、無駄に暑苦しい声だったはずなんだけど………。


ん?


んんん??



徐々に朧気だった意識がハッキリしてくる。


はっと我に返って顔を上げれば……。



「……潤…さん……」



すぐ目の前には、ずっとずっと会いたかった彼の姿……。



……って!!!!


「ひやぁぁぁぁぁ!!!!」


––––ゴンッ!


彼の腕の中から必死に逃れるように、ガサガサと後退りをすれば、行き止まりの壁に思い切り頭をぶつけてしまって……。


「何やってんの」


ええ。


それは、こっちが聞きたいです。


一体何で私は、あなたと抱き合ってたのでしょうか?



「……い、今、私に触ってましたよね?」


「人聞き悪いね。そっちが抱きついてきたはずなんだけど」


「うっ……そ、そうじゃなくて……。」
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