漆黒が隠す涙の雫

「……っ」


「それとも何?犯されにでも行くの?」


そう言って私に触れようとする潤くんは、無表情だけどどこか怒っている気がして……。


「触らないでっ!!」


私は手を払い、そう叫んでしまった。


「お兄ちゃんの事なんてどうでもいいくせに…!何にも知らないくせにっ…!私にとって、お兄ちゃんがどんな存在か…知らないくせに!」


潤くんは何も言わず、感情の読み取れない表情で私を見ている。


「私には、もうお兄ちゃんしかいないの……っ!お兄ちゃんがいなくなったら…私は…」



ひとりぼっちになっちゃう……。


本当のひとりぼっちに……。







私が襲われたあの事件の後、お兄ちゃんは武くんと暮らさなくてはならないあの施設から私を連れ出してくれた。


家族のように思っていた施設の子達を失って、私達兄妹はふたりきり。



お兄ちゃんは学校を辞めて、働いてくれた。


私も学校を辞めて働くと言ったのに、せめて高校は卒業して欲しいとお兄ちゃんに大反対されてしまった。


過去のトラウマのせいで、簡単に働く事が出来ないのも事実で、悔しくて…苦しくて…。


その上、これからお兄ちゃんばかり辛い思いをさせてしまうのが本当に心苦しくて。


それなのにお兄ちゃんは、


『兄ちゃんは愛華命だからいいんだよ!』


と言ってガハハと豪快に笑う。
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