漆黒が隠す涙の雫
そんなお兄ちゃんにどれほど救われたか分からない。
お兄ちゃんがいたから過去の出来事に押し潰されずにすんだ。
お兄ちゃんがいたから、辛くなんてなかったんだ。
それなのに…––––––。
泣いちゃだめ!
泣いちゃだめなんだ!
込み上げてくる涙を押し込めるように、強く唇を噛む。
“復讐してやるから”
そう言ったお兄ちゃん。
私があの時泣いたりなんてしたから、お兄ちゃんにあんなに恐ろしい言葉を吐かせてしまった。
私が泣けば、きっとお兄ちゃんは私の為に傷付く選択をする。
だから私はもう、泣いたりしないって決めたの。
–––––グイッ!
「–––––っ!」
突然腕を引かれ、バランスを崩した私が収まったのは、潤くんの温かい腕の中。
な……んで?
潤くんの大きな手が後頭部をスッポリと覆って、私の額は潤くんの胸に押し付けられている。
今起きている状況に全く思考回路がついていかない。
ただただ真っ白な頭の中、香ってくる潤くんの淡いシトラスの香りにキュウッと胸が鳴る。
「愛華が思ってるより、俺は愛華の事知ってるよ」
……え?
それって……?
ゆっくりと私を抱く力が緩められ、私達の間に距離が出来る。