漆黒が隠す涙の雫
私の後頭部に回された潤くんの手が、セミロングの私の髪をスッとすいて、
それに優しいキスを落とす。
あまりにも綺麗なその仕草に、時が止まったように釘付けになってしまった。
長い睫毛が揺れて、潤くんの伏せられたまぶたがゆっくりと開く。
交わる視線と視線。
「……っ」
こんなの、平常心でいろって方が無理な話だよ。
「–––愛華が悲しむからに決まってんだろ?」
潤くん……?
「……なっ!潤!お前…っ」
「愛華。行くよ」
潤くんは、動揺を隠せないお兄ちゃんを前に、私の手を引いて来た道を引き返す。
「おいっ!潤っ!ふざけんなよっ!何が人質だっ!!」
その間にも、お兄ちゃんの叫び声が倉庫内にこだまする。
「お前、愛華をどうするつもりだよ!?」
その声を無視して、潤くんは幹部室からの階段を下りていく。
その先には、さっき私達を追ってきた雷無の男達が横たわっていて、その中心に昴くん達が指をパキパキ鳴らしながら立っていた。
「潤。話は済んだの?」
「まーね。昴、修二、一先ず引き返すよ」
「OK」と言って私達の後をついてくるふたり。