漆黒が隠す涙の雫

傷のある左腕が疼くのか、愛華は腕をさする。


愛華の肩に触れようと手を伸ばせば、ふいにその手を握られ、心臓が跳ねた。


「愛華…?」


「でも、潤くんは違う。潤くんは私に言ってくれたよね?“傷つくなら俺の前で傷ついて”って。そんな優しい言葉を言える人が、平気で人を傷つけられる人なわけがない」


俺の手を握る愛華の小さな両手に、力がこもる。


「私の知らない所で…ずっと、私を見守っていてくれたんでしょう?」


小さくて温かい、愛華の手。


「潤くん。ありがとう!」


そう言って、俺の手を握ったまま柔らかい笑みを見せる愛華に、まるで心臓を掴まれたみたいに胸が苦しくなる。


愛しさが込み上げてきて、制御不能になりそうな自分の理性に、俺は戸惑うことしか出来ない。


……こんな気持ち、知らない。



「私に触れることのできる潤くんのこの手を、信じてもいいですか?」


大きな風が、ザァッという音と共に通り抜ける。




「潤くん……。私を人質にしてください」




気付いた時には、俺は愛華を強く腕の中に押し込めていた。


「じゅ…潤くん…っ」


「……信じられるの?」


「…え?」


「俺は、愛華を傷つけた暴走族だよ」
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