漆黒が隠す涙の雫
5*ルール
*愛華said*
「…このプリントは明日までに…–––」
帰りのHRの先生の話を、どこが上の空で聞いている私は、これから始まる人生初の人質生活の事で頭がいっぱいだった。
“人質にしてください”
昨日、私は潤くんにそう言った。
勢いとかそんなものじゃない。
潤くんになら自分の身を預けてもいい。
そう思ったから。
だけど、そもそも人質ってなんなんだろう?
潤くんに限って、私を怖がらせるような扱いはしないと思ってはいたけど、ちょっとした監禁くらいは覚悟してた。
だって、人質って言うくらいだし……。
だけど、今私はこうして学校に来ていて、バッチリ丸一日の授業を終えたのだ。
潤くんは、“次にあった時に説明する”って言っていたけど、その“次”すら約束をしていないし……。
今日、私がまた翼鷹の倉庫に行けばいいのかな?
行ったら潤くんに会えるだろうか?
開けられた窓から風が入り込み、カーテンが大きく膨らむ。
ふと窓の外に目をやれば、梅雨がもうすぐそこまで来ているような、どんよりとした曇り空。
湿り気を帯びた風の匂いが、昨日の記憶を呼び起こさせる。
……あんな風に、誰かに抱きしめられたのは初めてだ。