漆黒が隠す涙の雫
硬くて、ゴツゴツした体。
いとも簡単に私を拘束する、大きくて力強い腕。
私の髪を梳く、優しい手。
淡いシトラスの香り。
熱い体温。
“怖い”だなんて気持ちはちっともなかった。
「……っ」
私のバカ!
何思い出してるの〜!!
じわりと火照り出す体に、誰に見られてるわけでもないのにソワソワと辺りを確認してしまう。
案の定、クラスメイト達の視線は、教卓の前でプリントの説明をしている先生へと注がれている。
はー。困った。
最初から薄々感じてはいたけど、潤くんは見かけによらずスキンシップが多い。
お兄ちゃんも大概にそうだったけど、潤くんも相当なシスコン基質だと思う。
本当の妹のように大事にしてくれているのは分かるんだ。
分かるんだけど……潤くんのそれは時々心臓に悪い。
だって、なぜだかお兄ちゃんとは違うんだもん。
何かが、違うんだもん……。
火照った体を冷ますようにパタパタと手で風を送っていたら、「起立ー」という声にハッとさせられる。
いつの間にか帰りのHRが終わったようだ。
ガタガタと立ち上がるクラスメイトに合わせて私も立ち上がり、「礼ー」という声と共に「さようなら」と言ってお辞儀をした。