漆黒が隠す涙の雫
薄水色のワイシャツも、程よく緩められたネクタイも、潤くんの一際端整な容姿をさらに際立たせている。
「愛華」
もう一度そう呼ばれ、棒立ちになっていた私はハッと我に返る。
すると、潤くんの周りを囲っていた女子達の、獲物を横取りさせまいという狼のような視線が、私に集まっていることに気付いた。
ひぃっ!!
お、お邪魔しましたっ!!
カバンの持ち手をぎゅっと握り、くるりと回れ右をして、急いでその場を離れようと試みる。
だけど––––。
–––––ガシッ。
「コラ。何一人で帰ろうとしてるの」
潤くんに、手首を掴まれ引き止められてしまった。
「潤くん!あのっ…そのっ…」
離してくださいっ!
女子達の視線が怖いですっ!
離してくださいっ!!
「愛華を待ってたんだよ。一緒に帰ろ?」
「…っ!?!?」
その場にいた女子達が、チュドーン!と大爆発をしたかと思った。
私達のやり取りを見ていた女子は、頭から今にも火を噴くんじゃないかってくらい鬼の形相。
それもこれも、潤くんのせい。
だって、私の手首を掴んでいた潤くんの手は、するりと私の手のひらに重なって、世に言う恋人繋ぎの形に。