新宿ゴールデン街に潜む悪魔

実行

3人は前日と同じ6時45分に北赤羽の駅に集まった。

「あのさー、あの青髪が今日のこの時間に出勤してるって保証あるの?」

香が素朴な疑問を口にする。

「大丈夫や。盗聴器しかけたからな」

「盗聴器?いつの間に?」

「香がコーヒーこーてる時や。使ってない方のレジの下に着けた」

「すごい!で、なんか分かったの?」

「他のバイトと入れ替りの時に、昼から入る店員が『明日もよろしくー』ゆーとった。他にも色々ゆーてたなー。やっぱりあいつバイト先でめっちゃ嫌われとるわ。とにかく確実にこの時間あいつはおる。盲腸でない限りな」

「そうなんだ。村さんそんな技術あったんだね」

「いやー、盗聴も大変なんやで。ずっとイヤホン聞いてなあかん。退屈やったでー。でも有益な情報聞こえてきた時は、テンション上がるんや。パチンコで当たった時みたいにな」

「だろうね。そーいえば村さん探偵だもんね。忘れてた


「村さんは誰よりも探偵らしくない探偵なんだよ。こんなに大きな体で、こんなにおしゃべりな探偵はそうそういない」

「やかましわ。それより香も帽子被れ。防犯カメラに顔写ってもあれやろ」

香が響に帽子を借りる。男物なので若干ぶかぶかだ。

響がつばの大きい帽子を被っているのは、もちろん防犯カメラ対策だ。下から映すカメラはほとんどないだろう。顔さえ映らないならカメラなどどうということはない。

コンビニに着いた。やはり昨日の青髪は出勤していた。

「さて、行こうか」

響がそう言う。村岡と香は店内に入っていく。響は店の番号に電話をする。

電話に気づく青髪。ノロノロと電話に出る。

「もしもしー」

店名を言うより先に響が口火を切る。

「あのさー、宅急便出したいんだけどさー、どうすればい?」

「え?どうってまず送る物を持ってきていただいてですねー…」

「重いんだよねー。取りに来てくれるサービスとかないの?」

「いやー、そういうのはやってないので…」

そこで村岡がレジ前に立ち大きな声をあげる。

「おーい!ちょっとこいや!」

青髪は電話口で「しょ、少々お待ち下さい」と言って、カウンターに戻った。
めんどくさい電話に、怒った客。パニックに陥っているに違いない。

「お前からこの前スパゲティー買った者や。お前スパゲティー手で食べんの?フォークも箸も入ってへんから食われへんかったやんけ」

「も、申し訳ございま、ございません」

「どーすんねん?」

「えっと、本日同じしょくひ、商品を無料にせせ、させていただきますんで」

噛み倒している。こんな大男に大阪弁で怒鳴られたらそうもなるだろうが。

響は電話を一旦切って、再度かけ直す。
鳴り響く電話。青髪の思考回路はズタズタだろう。

そこで香はカウンター近くで何かを鞄に入れた。店の外からでは何を入れたのかは分からない。

香はすぐに店を出る。
村岡は

「もうええわ。今腹へってへんし。ほんまお前気を付けろよ」

そう言ってカウンターを離れる。

慌てて電話に出る青髪。

「そんなに時間かかるならもういいよ。あ、その態度と髪の色、直した方がいいよ」
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