新宿ゴールデン街に潜む悪魔

殴る

「どんどん出てくるなー。ヒビちゃん一体なんぼほど罪おかしとんねん?」

「40回くらいですかね。48回か。この前の万引きを入れて」

「万引きが初めてのチームプレイだったの?」

「そうだね。一人では限界がある。気の許せる仲間はやっぱり必要だ」

「全部語ったらえらい時間になるやろけどもうちょっと教えてや」

「空巣は3回入りました。被ってる犯行もありますからそこは抜きにして」

響はまた語りだした。




阿佐ヶ谷で飲んだ帰り道、響は10代であろう6人に囲まれた。物騒な会話が聞こえて来たのでちらっと見たら、それがガンを飛ばしたということになったらしい。

「おい兄さん、何見てたの?」

「いや、勇ましい武勇伝を語ってたんでちょっと気になってね」

「裏行こうよ。ね。裏。誰にも見えないとこ。ボコボコにしてやっからさ」

「ボコボコは勘弁してほしいなー。これでも自分の顔気に入ってるんだ」

「何インテリみたいなこと言ってんだ。殺すよ」

「殺されたくはないな。まだ108つやり残したことがあるんだ」

「煩悩の数だけあんのか。まーいーや。それはこれから1つも叶わねーな」

誰でも良かったのだろう。単にぶちのめす相手を探していたのか。

響は彼らのいう裏に付いていった。誰もいない、駐車場だった。
つくや否や彼らは襲いかかってきた。ガードを固める。腹筋に力を入れる。

腹を殴られた。しかし実際のところ響には全く効いていない。響はフルコンタクト空手3段なのだ。

しかし響は痛がった顔をする。そして芝居をうつ。

「痛いよ!ごめんなさい!もう勘弁してください!」

「いや、もっとボコるぞ!」

主犯格らしき男と体格のいい二人が同時にかかってくる。

その攻撃をぎりぎりのところで交わし、急所を避け、なんとか凌ぐ。

「もう立ってられません。グロッキーです。ギブアップです!」

そう言った瞬間、主犯格の男の右フックが響の顔面を捉えた。ややぐらつく。

その時響の導火線に火が着いた。

深く腰を落とし、男のみぞおちにフルパワーで正拳突きを叩き込んだ。

「ぐわっ!」

男は倒れこみ、悶絶している。涙を流しながらのたうち回る。それを見た周りの男たちが固まった。そして

「こいつつえーよ!やべえ!逃げるぞ!」

そう言ってばらばらに散っていった。

やってしまったな。響は思う。
さっきのパンチは効いた。それで反撃に出てしまった。
もし警察が来たら過剰防衛ということになるのかな?
いや、こちらは一発しか放っていない。まあ、男の内臓が破裂してなければいいが。

そんなことを考えながら響は帽子屋に行く。紺色のつばの大きい帽子を買って、漫画喫茶に入る。

今回はだけは事後報告だが

「今夜阿佐ヶ谷で、人を思いっきり殴りました」

と、書き込んだ。




「殴ることもあるんやー。でもそこまでよー耐えたなー」

「ほんとだよ。全員やっつけちゃったらよかったのに」

「いや、それは目立つ」









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