新宿ゴールデン街に潜む悪魔
コンロ
なぜカシワギは指名手配にならないのか。普通なら顔写真まで撮られている訳でニュースに顔写真が映ると思うが。
響は考える。証拠がないのだ。カシワギを犯人だと関連付ける証拠が。
実際、母が殺されたことはニュースにはなったが、犯人は不明で逃走中とのことだった。
それから月日は過ぎ、その事件のことは世間に忘れ去られた。響の中には色濃く残っている負の思い出も皆にしてみれば大したことではないのだ。
なら顔写真はどこから出たのか。警察としか思えない。重要参考人として召集を受けたが証拠不十分で釈放されたのだろうか。決め手に欠けたのだろう。指名手配用の写真がマスコミに流れたが、どうにもならなかったということとしか思えない。
「あのー、一見やねんけど入れるかな?」
「いいっすよー。何飲みます?」
バーテンは20代のぶっきらぼうな兄ちゃんだった。
少し不快に思ったがいつも通りジャックダニエルを注文する。
世間話をしようとするが、店内にかかっているジャズの音量が大きすぎてうまく話せない。
それに「もうかってんの?」等と聞いても「いえ」と最小限の単語で返してくる。9席ある椅子には外国人が5人座っていた。音楽を大きなボリュームでかけている店は外国人が多い。
村岡は英語が苦手なので外国人には話しかけない。
「カシワギさんって人くる?」
村岡は単刀直入に聞いてみた。
「あー、週に何回か来ますよ。知りあいですか?」
「あ、いや、知りあいの知りあいやねん。まー、知りあいの知りあいて、もう、他人やな。がはは!」
村岡は笑ったがマスターはにこりともしない。
ジャックダニエルを6杯飲んだところで村岡は酔っぱらってきた。今日は収穫なしか。お勘定を払って店を出る。
いけすかないマスターと思ったが村岡は次の日も来た。
「あ、昨日の。いらっしゃいませ」
二日連続で来たからかマスターは少し気を許したようだった。単なる人見知りなのかもしれない。
ジャズは相変わらず大音量で流れている。大きな声で無理矢理世間話をする。
好きな音楽や映画の話をした。彼はティム・バートンが好きだと言った。
「俺もティム・バートン好きやねん!」
と、話を膨らませようとした時一人の大男がのっそりと入って来た。写真より太っていて髭も生え、ニット帽を被ってはいるが、村岡には分かった。
ターゲットだ!村岡に緊張感が走る。
大きな鞄を、隣の席の上に置き
「いつもの」
と言う。
カシワギの言ういつものとはジェームソンのことらしい。ジェームソンをすぐに飲み干し
「おかわり」
と言う。バーテンの青年は無言でおかわりを差し出す。
一言も話さない。
カシワギも「いつもの」と、「おかわり」以外喋らない。話しかけてはいけないといった暗黙の了解でもあるのだろうか。
しばらくして、マスターが顔を近づけ耳元で言った。
「あんまり関わらない方がいいですよ。沢山飲んでくれる常連さんではあるんですけどね。何かヤバい」
カシワギがトイレに行っている間に村岡はわざと引っ掛かったふりをしてカシワギの鞄を落とした。そして
「すいません」
と、言いながら拾い上げ、その隙にGPSの機械を鞄の底に付けた。小型のものである。
帰ってきたカシワギは何も不思議には思ってないようだ。
「チェックで」
そう言って金を支払っている時、村岡は二つの衝撃を受けた。長袖シャツの裾から手首まで入った和彫りの刺青が覗いていたのだ。ヤクザだ。こいつはヤクザに違いない。
そしてもう一つの衝撃。カシワギの出したクロコダイルであろう長財布には200万近く入っていた。
とんでもない人間を相手にすることになるな。でもやってやろうじゃないか。村岡は腹を決めた。
GPSは付けたから大体の場所は把握できるが、家をこの目で見ておく必要があるな。
村岡はお勘定をしてすぐカシワギを追った。
響は考える。証拠がないのだ。カシワギを犯人だと関連付ける証拠が。
実際、母が殺されたことはニュースにはなったが、犯人は不明で逃走中とのことだった。
それから月日は過ぎ、その事件のことは世間に忘れ去られた。響の中には色濃く残っている負の思い出も皆にしてみれば大したことではないのだ。
なら顔写真はどこから出たのか。警察としか思えない。重要参考人として召集を受けたが証拠不十分で釈放されたのだろうか。決め手に欠けたのだろう。指名手配用の写真がマスコミに流れたが、どうにもならなかったということとしか思えない。
「あのー、一見やねんけど入れるかな?」
「いいっすよー。何飲みます?」
バーテンは20代のぶっきらぼうな兄ちゃんだった。
少し不快に思ったがいつも通りジャックダニエルを注文する。
世間話をしようとするが、店内にかかっているジャズの音量が大きすぎてうまく話せない。
それに「もうかってんの?」等と聞いても「いえ」と最小限の単語で返してくる。9席ある椅子には外国人が5人座っていた。音楽を大きなボリュームでかけている店は外国人が多い。
村岡は英語が苦手なので外国人には話しかけない。
「カシワギさんって人くる?」
村岡は単刀直入に聞いてみた。
「あー、週に何回か来ますよ。知りあいですか?」
「あ、いや、知りあいの知りあいやねん。まー、知りあいの知りあいて、もう、他人やな。がはは!」
村岡は笑ったがマスターはにこりともしない。
ジャックダニエルを6杯飲んだところで村岡は酔っぱらってきた。今日は収穫なしか。お勘定を払って店を出る。
いけすかないマスターと思ったが村岡は次の日も来た。
「あ、昨日の。いらっしゃいませ」
二日連続で来たからかマスターは少し気を許したようだった。単なる人見知りなのかもしれない。
ジャズは相変わらず大音量で流れている。大きな声で無理矢理世間話をする。
好きな音楽や映画の話をした。彼はティム・バートンが好きだと言った。
「俺もティム・バートン好きやねん!」
と、話を膨らませようとした時一人の大男がのっそりと入って来た。写真より太っていて髭も生え、ニット帽を被ってはいるが、村岡には分かった。
ターゲットだ!村岡に緊張感が走る。
大きな鞄を、隣の席の上に置き
「いつもの」
と言う。
カシワギの言ういつものとはジェームソンのことらしい。ジェームソンをすぐに飲み干し
「おかわり」
と言う。バーテンの青年は無言でおかわりを差し出す。
一言も話さない。
カシワギも「いつもの」と、「おかわり」以外喋らない。話しかけてはいけないといった暗黙の了解でもあるのだろうか。
しばらくして、マスターが顔を近づけ耳元で言った。
「あんまり関わらない方がいいですよ。沢山飲んでくれる常連さんではあるんですけどね。何かヤバい」
カシワギがトイレに行っている間に村岡はわざと引っ掛かったふりをしてカシワギの鞄を落とした。そして
「すいません」
と、言いながら拾い上げ、その隙にGPSの機械を鞄の底に付けた。小型のものである。
帰ってきたカシワギは何も不思議には思ってないようだ。
「チェックで」
そう言って金を支払っている時、村岡は二つの衝撃を受けた。長袖シャツの裾から手首まで入った和彫りの刺青が覗いていたのだ。ヤクザだ。こいつはヤクザに違いない。
そしてもう一つの衝撃。カシワギの出したクロコダイルであろう長財布には200万近く入っていた。
とんでもない人間を相手にすることになるな。でもやってやろうじゃないか。村岡は腹を決めた。
GPSは付けたから大体の場所は把握できるが、家をこの目で見ておく必要があるな。
村岡はお勘定をしてすぐカシワギを追った。