たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
音楽は演奏者の人となりを表すと言うが、まさにその通りかもしれない。

歌こそなかったが、綺麗な指先からつむがれる音は繊細で優しく美しい。



ハープを弾くその姿はまるで神話に出てくるアポロンの様だ。


窓からは月が見える。

窓が額縁となってエルンストと月が、一枚の美しい絵画さながらだとフィーアは感心していた。


エルンストの奏でる音色の美しさに、昔自分がいた宮廷の景色をフィーアは思い出す。

きらびやかなドレスを来た貴婦人たちがフィーアのハープで踊っていたものだ。

宮廷の貴婦人.....この単語がフィーアの心に何故か刺さった。


時々エルンストは夜勤と称して屋敷に戻らないことがある。

もしかしたら、この方は宮廷の美女と浮名を流しているのだろうか?


急に胸がトクンと鳴った。


そっとエルンストから視線を外すと言い知れぬ切なさがこみ上げてくる。


ご主人様はちょっとぶっきらぼうで恐いところもあるけど、宮廷の女性が放っておくわけがない。

きっと、お帰りにならないときは、貴族の娘とベッドを共にしているのだわ。

何故そんな想像をするのか自分でも分からない。だけどそれが苦しくて悲しい。

喉につかえた石ころが焼け付くようにフィーアを苦しめる。
まるで身の程知らずな小娘に罰を与えるように。

私はこの方の胸に抱かれることはない。




フィーアはエルンストが娼婦しか抱かないことを知らなかった。


元貴族であっても、私は奴隷、今は奴隷なのだから。

何度も何度も心の中で繰り返していた。


ふいに音楽が止まり、はたと我に返ったフィーアは急に恥ずかしくなった。
音楽が抑えていた感情をうずかせたのか?

そんなふしだらな想像をする自分が恥ずかしく、汚がれたものに感じフィーアはひたいに手をあてて首を振った。
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