たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
1階の廊下を歩いていると、上階からエルンストが降りてきた。


”ドキン”として息が止まる。

まだ起こしに行くには少し早い時間だった。


今日はいつもより早くお出かけになるのかしら?
でも、フィーアはそれよりも焦る理由があった。


昨夜の記憶が鮮やかによみがえってきたから。


「あ、おは....ようご....ざいます」指から唇を離し赤くなった顔を床に向ける。


「.....どうした?」


緊張するフィーアとは対照的に、いつもの不愛想な声でエルンストが問いかける。
その表情だっていつもと変わらない。少し冷たい視線。


「あ、あの....」


違う。私は優しい声を待っていたんじゃない。

想われていると調子に乗ったわけでもない。

屋敷のみんなにバレてはならないことだって分かってる。


だけど、チクって鋭い針に胸を刺されてしまった。


だから、だから....泣いてしまった。
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