たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
「痛いのか?」

瞳からこぼれた雫をエルンストの親指がなぞる。



「いいえ、いいえ.....」首を振る。

指が痛いんじゃありません。
あなたの態度が昨夜と違い過ぎて....。急に悲しくなりました。

喉でつかえた言葉。


うつむくフィーアのあごをつかむと、潤んだ瞳をエルンストは見つめた。


「俺が包帯を巻いてやろう」言葉を残して先に居間へと入って行く。


フィーアを長椅子に座らせると、自分は救急箱を取りフィーアの隣に座る。


「見せてみろ」フィーアの手をとった。


と、傷口に口を寄せた。

舌が血液をすくう。


”ズキン”舌先から伝わる痛みで「あっ...」一瞬目を閉じフィーアは声をあげてしまった。


エルンストは顔を動かさず切れ長の瞳だけを動かしててフィーアをとらえた。

恥ずかしさでフィーアは視線をそらす。


そっと指から唇を離すと、無言のまま傷口に薬を塗り、ガーゼを貼るとその上から包帯を巻いてくれた。

野戦などで応急処置に慣れているエルンストは難なく作業を終える。


「気をつけろよ」


「はい、ありがとうございます」



お互いを見つめあう瞳は愛しあう恋人同士のそれのようだった。

いまにも狂いだしそうな心臓を抱えてフィーアの呼吸は少しだけ荒くなっていた。



「フィーア」静かにささやくと、


エルンストの片手が延び、フィーアのほほを包みその顔を自分へと引き寄せ、瞳がゆっくりと閉じられ.....。
< 127 / 296 >

この作品をシェア

pagetop