たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
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いつものようにエルンストが帰宅し、フィーアは湯殿でエルンストの背中を流していた。

「背中を洗え」「はい」型どおりの会話しかここまでしていない。

と、言うより心ここにあらずのフィーアを見てエルンストが話しかけるのをためらっていた。

どうも様子がおかしい?考え込むエルンストだったが、無言で手を動かしているフィーアにため息と共に口を開いた。

「自室に帰ったら、今日は夜着に着替えずに私服で待っていろ」

エルンストが話しかけたにもかかわらず、返事がない。


「おい、聞いているのか?」


「えっ?」


「皆が寝静まったら、二人で屋敷を抜け出すから夜着ではなく私服でいろ」

いったいどうしたのだ?そんな顔で振り向くとフィーアに視線を送る。


「あの、朝食の仕込みに時間がかかるみたいで」

「構わん。待っている」

「それに私、今日洗濯が沢山あって疲れているので止めておきます」
感情に押し流されてしまったことをフィーアは後悔していた。
私たちに未来はない。フィーアは胸の前でギュっと手を握った。


完全に疑心暗鬼に囚われていた。
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