たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
漆黒の闇に響くのは静寂を破る馬のひずめの音だけ。


一体どこへ向かっているの?

不安に思いながらもなすがままでいるしかない。

エルンストは一言もしゃべらない。

馬は速度を変えることなく、迫る闇に向かってひた走っていた。


無意識に視線を移した暗い森の中は魔物や亡霊が出てきそうでフィーアは身震いする。

今にもラルヴァ(悪霊)が襲ってきそうだ。恐くなってエルンストにつかまる指に力を込める。


まるでこの世界には生きとし生けるものが二人しかいない感覚に襲われる。

あなたと私だけ。

暗闇に包まれて気が遠くなりそうだ。

だけれど、こうして胸に顔をうずめていると、やっぱりこの方をどうしようもなく愛している。そんな想いに心を締め付けられる。

いっそ何もかも捨てて彼の胸に飛び込んでしまいたい。そんな衝動にかられながらもグッと理性が姿を現す。

まるで迷宮に迷い込んだ心。

誰か答えを教えて....。


永遠に続くと感じた闇をどれだけ走ったのか、馬は速度を徐々にゆるめ、そしてゆっくりと歩きだす。


森を抜けると急に視界が広がった。
小高い丘があり、そこにはひざ丈くらいある草の原が広がっていた。


その中を草をかき分けながら馬は進む。


「どうどう」ふいにエルンストが馬を止め先に降りると、フィーアに腕を差し出した。


降りてこいと言うのだ。


戸惑いながらもエルンストの腕に飛び込む。





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