たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
────ゾフィーのいる離宮を辞してフィーアは夕暮れの町を歩いていた。


ハンスから帰りに夕食の材料を買ってくるように言われている。


肉屋で買い物を済ませて出て来た時だった。


フィーアのスカートを引っ張る老婆の姿が。


何か恵んでくれと言っている。



「困ったわ。お金はコンラートさんから預かっているだけだし」


老婆はフィーアのスカートを離そうとしない。


食材だって自分のお金で買っているわけではないので、勝手に与える事も出来ない。


「その娘さんを離してくれませんか?」


声と同時に金貨が一枚老婆の目の前に落ちた。



「えっ?」


見るとファーレンハイトだった。


老婆は慌てて金貨を拾うと、ギュッと握りしめ礼も言わずにどこかへ走り去っていく。
< 220 / 296 >

この作品をシェア

pagetop