たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
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執務室に戻ったエルンストに「フィーア殿のご様子は?」とファーレンハイトが声をかけてきた。


「ああ」エルンストは短く答える。


首をかしげるファーレンハイトだったが、以前エルンストに調査を命じられていた案件の報告をすることにした。


「以前殺害された、ベッヘム伯の件ですが、どうやら裏でゲルフェルト侯爵が糸を引いていたようです。実行犯は寸でのところまで追いつめたのですが、一歩及ばず国外逃亡いたしました」


「そうか」エルンストは机に肘をついて窓の外を見ている。


閣下?

理由はあれだな。ため息をつくとファーレンハイトは言葉を続けた。


「ゲルフェルト侯爵ですが、その娘グレーテに対する陛下のご寵愛をいいことに政敵の粛清にかかっております。閣下もご存知かとは思いますが、ここ数日で10人の対立貴族が投獄されております。恐怖政治の始まりのような気がしてなりません」


”ドン”とファーレンハイトはエルンストの机を叩いた。



一瞬驚いた様子を見せて、エルンストは「その、何だ。不満を漏らす貴族も増えているしな」机に置かれた報告書に目を通した。


「はい。しかし陛下は側近の意見にも耳を傾けず、今はゲルフェルト侯の言いなりとか」


事態はかなり深刻化している。


このままではゲルフェルトを快く思わない貴族の不満が爆発して、内紛が起こるかもしれない。

噂では私兵団を擁する貴族も出てきているとか。

宰相代行のバルツァーも相変わらず無能ぶりを発揮している。


せっかく安定していた国内に無用な乱が起これば、隣国に攻め込まれかねない。

特に一昨年に一戦交えたシュタインベルグなどは、これを好機と攻め込んでくるだろう。


「いったいどうしたら....」エルンストの悩みは深い。


問題は山積みだ。


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