たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
昨日の嵐がうって変わって翌朝はいい天気だった。

ほとんど休暇を取らないエルンストが、珍しく今日は午後からの登城だと言って午前中は屋敷にいた。

皇妃ゾフィーのことも心配だったが、今は少しでもフィーアのそばにいてやりたかった。

これからまた宮廷闘争に身を投じなければならない。

いつ屋敷に戻れるか分からないのだ。


朝食を済ませると、「今日はユリの手入れを手伝うぞ」そう言って身支度を整えるとフィーアを伴って庭に出ていた。


嵐のせいでほとんどのユリの花が倒れたり、折れたりしている。

作業をしながらエルンストはフィーアに冷めやらぬ瞳を向けてくる。

溶けてしまいそうな熱視線にフィーアは身じろぐ。

「フィーア....」その声はもう一度愛を求めるような甘い声だった。



と、「ご、ご主人様っーーー!!た、大変でございますっ!!」

見つめあう二人の空気ををぶち壊すように、コンラートが髪を乱し慌てて走って来た。

また邪魔する気か。エルンストは舌打ちする。

熱い想いは夜に持ち越しだな。
やれやれとばかりに仕事に忠実な執事に視線を送ると、苦笑いで立ち上がる。


「お前は何故かいつも慌てているじゃないか。今度は何だ?もう歳なんだから、そんなに走るな」


「これがどうして落ち着いていられましょうっ!!」


「うん?その慌てよう、シュタインベルグが我国に攻め込んで来たか?」


「はぁ、はぁ。そのようなご冗談を....はぁ」

肩で息をするコンラート。どうやら余程の事らしい。


「陛下が、皇帝陛下がお越しにございますっ!!」


「何っ?!陛下がっ?!」さすがにエルンストも顔色を変えた。


「すぐにお召し変えを」


「分かった。フィーア手伝え」

片付けもそこそこにエルンストはフィーアを伴って自室へと急いだ。
< 260 / 296 >

この作品をシェア

pagetop