たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
「エルンスト様はまだお若くていらっしゃいます。
そのような衝動を抱かれても仕方ありますまい?」


「俺を責めないのか?ヘレナ」


「どうして責める必要がありましょうか?
たとえあなた様の気まぐれでもフィーアは過酷な生活から救われたのですから。奴隷の身分を考えれば、抱かれたとて文句は言えますまい」

エルンストをかばうエレナの優しさに黙ってうなずく。


「娼婦のほうがよほど楽だ。金を払えば自由になる。俺も割り切れるしな」


「まあ、そのような事をおっしゃいますな。いずれ愛する方が現れますわ」


エルンストは空を見上げた。

今宵は星が出ていない。どこまでも続く闇。
まるで自分の心を見ているようだ。



「エルンスト様。フィーアの今後の身の振りかたはどうお考えですか?」


静かに問いかけるヘレナに対し、

「とりあえず、俺の身の回りの世話をさせる」


「おおせの通りにいたします」ヘレナはほっと胸をなでおろす。



「あの娘....上流階級の言葉を使っていたな」


「やはりお気づきになりましたか」


「ああ。奴隷同士の間に生を受けた娘ではないな」


「はい。親か兄弟が罪人に落ちたのでございましょう。元は由緒正しい育ちだと思われますね」


「そうだな」

エルンストは何を考えているのだろうか?
フィーアが気になるのだろうか?
しかしここは心を鬼にして言わなければならないことがある。

ヘレナは唇を一度ギュッとつぐんだ。
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