たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
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一方、カールリンゲン国の皇帝ゲオルグ三世に謁見するために、その居城を訪れていたエルンストは謁見の間の前室に控えていた。


服装の乱れを直し、髪を整えて待っていると「ベーゼンドルフ団長、お待たせいたしました」
皇帝の侍従が扉を開けて呼びかけてきた。


黙ってうなずくと、謁見の間へと足を運ぶ。


広々として壁には金で装飾を施されたきらびやかな室内の奥に玉座がすえられ、そこに若き皇帝は鎮座していた。
皇帝の両脇には側近が控えている。


エルンストは皇帝の目の前まで歩みよると、「皇帝陛下」静かに口を動かしうやうやしくひざまずいた。


もしここに女官たちがいたら「ああ....」とため息を漏らしていたに違いない。
エルンストのたぐいまれなる容姿と色気漂う肢体だからこそだが、優雅で無駄のない所作を皇帝の前で見せていた。


「シュバルツリーリエの団長は今日も宮廷の女官たちを誘惑しに来たようだな」

笑顔で迎えられたエルンストは恐縮したように頭を下げる。

「めっそうもございません、陛下」


皇帝付騎士団の別名をシュバルツリーリエと言った。

これは代々騎士団の団長を務める、ベーゼンドルフ家の家紋に由来する。
この武門の名家の紋章は家風とは対照的にゆりの花だった。


シュバルツリーリエ....黒ゆり。


実際黒ゆりなどこの世に存在しない。
つまり、この世のものとは思えないほど秀いでた武人の集団。という願いを込めて先々代の皇帝がつけたとエルンストは幼い頃に祖父から教わっていた。

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