たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
ゲオルグはゾフィーと結婚する前に他国の姫に求婚し断られていた。

その相手とはカールリンゲンと国境を接するフォーゲルザンク国の宰相の娘だった。


その美しさは大陸の隅々まで知れ渡り、各国の王や皇太子が求婚したが、すべて断られてしまったらしい。

ゲオルグもその一人だった。

『宰相の身分で皇帝の申し出を断るなどもってのほかっ!!この遺恨必ず晴らしてくれるっ!!はらわたが煮えくり返って、夜も眠れんっ!!』


などとしばらく荒れていたが、気がつけばその姫の話はいつの間にかしなくなっていた。

ゾフィー様によほどぞっこんなのだな。エルンストは思った。


エルンストもその姫の話を噂では聞いていたが、たいして興味がなかったこともあり顔も名前も知らなかった。


フォーゲルザンクとの関係は良好であり、わざわざ人質のように他国の姫を結婚相手に迎え入れるより、今は自国の安定。
ゾフィーとの結婚は国内を安定させる。


「好きな女はいないのか?」

あらためてゲオルグに問われて答えに窮しながらも一人の女の顔が脳裏をかすめる。


「申し訳ございません。まだ妻をめとるつもりはございません」


「強情な奴だな。久しぶりに食事を共にしよう。世がお前の好きそうな美女を適当に見つくろっておいてやる」


「はあ....」皇帝の誘いを断ることも出来ず取りあえずうなずく。


その後二人は雑談を楽しみ、謁見の間に入ってから一時間ほどしてエルンストは退室した。
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