たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
────エルンストがシュバルツリーリエの執務室で部下からの業務報告を受けたり、雑務をこなし屋敷に戻ってきたのは夕刻だった。


「「お帰りなさいませ」」


コンラートとフィーアが迎える。



「すぐ風呂だ」

手袋とマントをコンラートに渡すと、そのまま浴室へと向かう。

フィーアはその後ろを黙ってついて行く。

エルンストは普段から必要最小限の言葉しか発しない。

それが不愛想に見えるのだが、怒っているようでフィーアはよけいに緊張してしまう。

入浴の介添え。フィーアにとって初めての付きっ切りの仕事だ。


ルイーズから介添えの仕方は教わっている。


着替えを用意し、エルンストの脱いだ服を綺麗にたたむ。
後は脱衣所で控えていればいい。
声がかかればエルンストの背中を洗ったりするらしが、ルイーズは一度も声をかけられたことが無いと言っていた。


そして、出てきたエルンストの背中を拭いたりもするらしいのだが、これもルイーズは経験がないらしい。


無用な心配かもしれないけれど......。
昨日のこともあり、フィーアは緊張していた。
もし何かあったら、この短剣でご主人様を刺してわたしも死ぬ。
そう心に決めている。

フィーアの手に握られた短剣はどこの雑貨屋でも手に入る、なんの変哲も無いたぐいの物だ。


屋敷を掃除していたときに、さやの付いたナイフを偶然見つけていた。
悪いとは思ったが、万が一の時にとこっそりメイド服に忍ばせておいたのだ。


じっとりと汗をかいた手で、フィーアは服の胸をキュッと無意識に握りしめていた。
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