たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
「気高さなどむしろ邪魔なだけ。私は侍女なのだから」

空に向かってつぶやく。


見上げた空を彩る星々は故郷で見ていたものと同じだ。

星の瞬きに比べれば、人の一生なんてたかが知れたもの。

短い人生をここで侍女として終えるのだろうか?

それとも他に何か待つものがあるのか?

”生”に固執するつもりはないけれど.....。


「今わたしが出来ること。それは誠心誠意ご主人様にお仕えすること。この家の役に立てる人間になろう」

フィーアはそう心に誓う。



「でも....あの頃は楽しかったな」
薄っすらと涙が浮かぶ。


自分の身の上に起きたことを恨んでもしょうがない。
奴隷に身を落としたときからそう思うようにしていた。


だけど、こうしてささやかな幸福を手に入れると思い出してしまう。


家族が笑顔に包まれていた、幸せだったあの頃を。


いっそ狂ってしまえば楽かも知れない。そうできないから人間とは不便な生き物。

ジワジワと涙が湧いてくると、一気にほほを流れる。


「お父様、お母様、わたくしはこうして生きながらえております。早くお側に行きとうございます」


瞳を閉じて、両親の姿を想い浮かべる。


溢れる涙がとまることはなかった。
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