たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
....ふと、涙を流すフィーアに懐かしい香りが鼻を刺激した。


目を開けて窓の下をのぞき込むと、屋敷を囲むようにユリの花が沢山植えられている。



満開の時期には少し早いのか、緑のつぼみをつけたものから、わずかに開いたものまで暗闇に小さな光を灯すがごとく白く輝いて見える。


「ユリは香りが強いから、ここまで匂いがするのね」

風に揺れる髪を耳にかけると、この家の紋章がユリの花だったことを思い出していた。


「それでこんなに沢山のユリの花が.....」


よく見ればこの屋敷のユリはすべて白だ。

私と趣味が一緒だわ。

そんなささやかな共通点に、ふっと小さく笑みをこぼす。



フィーアの家の紋章もユリの花だった。

私がこの家の主人に助けられたのも何かのご縁があったのかもしれない。



もしかしたら、お父様とお母様が私を助けて下さったのかも。



ただななぬ偶然を感じながら、フィーアは窓辺でいつの間にか眠りこんでしまっていた。

ユリの香りを夢枕にして。
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