たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
ほどなくしてエルンストが食堂に姿を現すと、使用人たちは一斉に頭を下げる。

その様子を一瞥したエルンストはテーブルの前に立ち、フィーアに隣に来るようにと手招きをする。


「昨日から当家の新しい侍女に加わった、フィーア・フォン・モーデルだ」


一斉に視線が集まって、”ドキン”と心臓が鳴りフィーアはほほを赤らめて使用人たちに向かって一礼する。


「彼女は俺の母方の遠縁にあたる者だ。今後よろしく頼む」


使用人たちから拍手が上がった。


フィーアが奴隷だと知っている者は少数だ。

あえて、使用人全員の前で紹介したほうが、フィーアが奴隷だとバレないとエルンストは考えていた。


更に、エルンストの遠縁となれば遠慮してフィーアの生い立ちをあれこれ聞いてくる者も少ない上に、もし聞かれたとしても本当に遠縁の娘の話をすればいい。

フィーアの言葉遣いも立ち振る舞いも貴族の娘として問題はない。
誰も奴隷だとは思わないだろう。


そして、後でフィーアに遠縁の娘の話を吹き込んでおけばいい。

そう判断してのことだった。


これから新しい生活が始まる。
希望と不安がごちゃ混ぜのフィーアだった。
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