たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
屋敷から城下町にあるバザールまで歩いて20分ほど。

フィーアにとってすっかり慣れた道のりだ。


森を抜け、湖の横に来ると、黄色いつぼみをつけた宵待ち草が群生していた。

普通夕方に咲き、朝になるとしぼむのだが、時間を間違えたのか所々で開花している。


「帰りに少しちょうだいね」


宵待ち草に話しかけると、まるで「イヤイヤ」と言っているかのようにユラユラと揺れる。


フィーアにとってすべてが輝いていた。


自由がこんなに素晴らしいなんて!

そんなこと今まで感じたことなどなかった。それが当たり前だったから。

自分の屋敷にいたころの生活は窮屈だったし、奴隷になり鎖につなれている時は、苦しすぎて考えることをやめていた。


とにかく見るものすべてが新鮮で楽しかった。

フィーアの住んでいた町にもバザールはあったが、行かせてもらえなかった。

『お嬢様が町へ出るなど、とんでもございません。平民にまみれるなど汚らわしい!!』

フィーアの教育係だったアルベルタに何度頼んでも、許してもらえなかった。


それが、今は護衛もお付きの侍女もなしに一人でバザールへ行けるのだから。



ここでの生活は辛い過去を忘れされてくれる。
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