たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
────城下町に着くとバザールはいつもより人出が多く賑わっている。


今日は何かあるのかしら?

すれ違う人はいつもの倍以上だ。かなりの混雑ぶりで時々人とぶつかる。

フィーアは興味深げにキョロキョロしながら露店が立ち並ぶ通りをゆっくり歩く。


そんなフィーアに通行人のおじさんが「今日は初夏を祝うトロッケン祭り」だと教えてくれた。


トロッケン祭りとは、昔この地の町長だったマイスター・トロッケンが酒豪で、ワインを一度に5リットルも飲んだことに由来しているらしいが、いまいち不明だった。


それであちこちに、グラスを持ってほろ酔いの人たちがいるのだと、フィーアはうなずく。

お祭りはいくつになってもワクワクする。

賑やかな声と活気が気分を高揚させる。

視線を向ける人々の、どの顔にも笑顔が浮かんでいる。


子供たちが絵の具の塗られた木製の剣で騎士団ごっこをしているのが見えた。

フィーアは近づく。

騎士団は男の子たちの憧れだった。

「僕は団長のエルンストだぞっ」

「じゃあ僕はファーレンハイトだっ」


エルンストの名前を聞いてフィーアはドキリとした。

ご主人様って有名なのね....。子供たちにまで名前が知れ渡っているなんて。


「大陸一の勇者だぞっ!!」

子供たちの声を聞きながら、改めてエルンストの凄さをフィーアは実感する。
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