たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
広場の入り口まで来ると、どうやらここでも何かやっているらしい。
人だかりが出来、声が飛び交っている。

歓声が他の場所よりも大きい。


「ごめんなさい」好奇心から人ごみをかきわけて輪の中心へと進む。


”ビシッ!!”


突然ムチの音がした。


ビクンと心臓が鳴り、反射的に足を止めてしまう。

暗い過去の記憶がよみがえる聞き覚えのある忌まわしい音。


「あれは....?!」

背の高い男の影からそっと顔をのぞかせる。


間違いない。奴隷商人だった。


売られている奴隷たちにも見覚えがある。


手のひらにジワジワと不快な汗が湧いてくる。



奴隷たちに視線を向けると、フィーアが鎖につながれていた頃より奴隷の数がだいぶ減っている。
恐らくここへ来るまでに売られて行ったんだろう。

エルンストに自分を選べと言った女奴隷の姿も無かった。


「さあ、さあ旦那方。うちの奴隷はお買い得だよっ!!何と言ってもこの娘....」
 
奴隷商人はうつむく少女の髪をつかむと、顔が良く見えるようにクッと上に引っ張った。


「いくらだ?」


「旦那、お目が高いっ!!」


フィーアは思わず両手で耳をふさぐ。


切ない気持ちがこみ上げる。
自分が彼らを俯瞰で見ていられるのは、ご主人様のお陰。

あの時、ご主人様が私を買ってくれたから、今は幸せな暮らしをしていられる。

今まさに売られようとしている少女を見ているだけで胸が張り裂けそうで苦しくなってくる。と、自然に涙がにじむ。

スカートの裾をギュッと握りしめると「ごめんなさい」そう言い残して、フィーアはその場を逃げるように後にした。
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