たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
目を閉じるとさっきの少女の姿が勝手に脳裏に浮かんでしまう。

あの子...確かまだ14歳だった。

奴隷制度....なんて理不尽なんだろう。自分が罪を犯したわけでもないのに。

あの少女だって父親の作った借金の為に奴隷に身を落としたのだから。

フィーアは自分にもある奴隷の焼印にそっと手を伸ばす。

せめていい人の元に売られて欲しい。そう願うしかないフィーアだった。


「おーいフィーア!」


切なさと悲しみに暮れるフィーアに突然かけられた声に振り向くと、花屋のギードが手を振っている。


「どうしたんだい?浮かない顔してさ」


「ううん、何でもないの」無理に笑顔を作って見せる。

話したところで奴隷の辛さは奴隷にしか分からない。むしろ話したら大変なことになってしまう。

恐らく人の良さそうなギードだってフィーアが奴隷と知った途端に態度を急変させるはずだ。


「まさか奴隷市見ちゃった?」


黙ってフィーアはうなずく。


「私いつもあそこで休憩してたから」


「だろうと思った。気分が悪くなっちゃうよね、あんなの見たら。ウチで少し休んで行くかい?」


「ありがとう。でも早く帰らないとハンスが夕食を作れないから帰るね」


ギードだってわたしが奴隷と知ったら態度を変えてしまうんだわ。

それは当たり前のことで、責められることではなかった。

フィーアは胸に手をあてる。

自分だけ幸せになっていいのだろうか?でもさっきの少女を買えるわけない。



「そうだ、ちょっと待ってて」ギードはフィーアを残して店の中に消えてしまった。


しばらく待っていると、

「はいこれ」赤いバラを差し出された。
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