たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
「お屋敷は走っちゃだめよー」

ルイーズの声はフィーアに届いていないようだった。
パタパタと廊下を走る音が聞こえる。

「やれやれ」ため息をもらしながらハンスの隣までやってくるルイーズ。


「最近明るくなったと思わねえか?フィーアのやつ」

ハンスは火にかけた鍋を小刻みに揺する。

体が大きいくせに料理の味は繊細なハンスだ。その体型や風貌からは想像できない料理を作って皆を驚かせる。


「そうね、ここへ来た頃は口数も少なくて、暗く沈んでたから。
まぁ無理もないけど」

作業台に置かれていたサラダのトマトをパクっとつまみ食いする。

「うん、甘い。もう一個」

伸ばした手をハンスにパチンとはじかれ「ケチ」と、ほほを膨らませる。


そんなルイーズを無視して、

「ま、若い子が明るくのはいいことだ」ハンスは大きな体を揺らして豪快に笑う。

身長が180センチを超える巨漢のハンスが笑うと地響きが起きるようだとルイーズはいつも思う。

フィーアを若いと言うがハンスだってまだ30歳前なのだが。


「いい歳してあんたは明るすぎなのよっ」

すっかり年寄り扱いをする。


「ちぇひでえなぁ」


「さーてと、夕食作り手伝うわよ」

腕まくりをすると、ルイーズは勝手知ったるとばかりにハンスを押しのけて調理を始めた。

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