たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
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────その頃、入浴を済ませたエルンストは自室で濡れたグレーの髪を風に揺らしていた。


大きくあけ放たれた窓からはユリの花の香りと共に、初夏の風が流れてくる。


「もう夏か」


夏が来れば屋敷を取り巻くように植えられたユリの花は満開になる。

香りが屋敷を包み、夏の訪れを否が応にも感じさせる。


エルンストはこの季節が嫌いだった。

ユリの香りが幼い頃の記憶を思い出させるから。

とは言え、ユリの花を処分してしまう気にもなれなかった。


早く秋が来ればいい。


今年も来年も再来年も夏を嫌う気持ちは変わらないだろう。


「俺は死ぬまでこの季節を憎むのか」


自嘲するように口元を歪めるエルンストだった。
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